研究課題
語義失語患者(Semantic Dementia : SD患者)を対象に患者の音韻エラーを分析し、その生起要因を解明することを目的として研究を進めている。SD患者は単語の意味を徐々に失うという意味知識の選択的障害を持つ。一方で(複数の)単語の再生場面で音韻エラーを頻出する。一見、意味と音韻の二つのレベルの障害を持つように見えるが、意味の障害が音韻の操作に悪影響を与えていると考えられる(意味障害仮説)。すなわち、単語の意味は単語内の音系列を1つに束ねる働きを持っており、SD患者では単語の意味の喪失により音系列を束ねることができず、結果として音韻処理レベルの操作にエラーが生起する。この仮説が正しければ、SD患者の音韻エラーのパターンは健常成人のそれと同じであると予測される。現在までの研究により、健常成人の音韻エラーは単語の枠組みの制約という、音韻規則を反映した形で起こっていることが分かっている。そこで今年度はSD患者6名を対象に単語の復唱と系列再生課題を実施し音韻エラーを分析した。その結果、SD患者も音韻の枠組みの制約を反映したエラーを産出することが明らかになった。これは意味障害仮説を支持するものである。今年度は更に、この仮説を別の視点から検討する方法として、音韻表象のもう一つの重要な構成要素であるアクセントを取り上げ、単語復唱と系列再生課題でのSD患者のアクセントの産出を分析することにより、音韻表象への意味の影響を検討した(患者の成績との比較のため、患者と年齢および居住地域を統制した健常成人群に対しても同じ課題を実施した)。結果、SD患者は単語のアクセントの産出においても意味障害の影響が現れることが分かった。また、意味障害の程度とこれら課題での成績の関係をみるため、意味障害の程度を正確に把握するための意味テストバッテリーを作成し、SD患者と年齢を統制した健常成人群を対象に現在実施中である。
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