脳は自己免疫血栓性疾患である抗リン脂質抗体(APS)の重要な罹患臓器である。通常の動脈硬化性疾患と比べると、APSでは心筋梗塞に比べて脳梗塞が圧倒的に多い。APSの血栓形成機序は、APS患者に存在する抗リン脂質自己抗体が内皮細胞や単球を活性化して向血栓状態にすることと考えられている。本研究では、血管内皮細胞の臓器特異性について注目し、APSにおける脳梗塞の血栓形成機序を解明することによって同疾患の特異的治療法を開発すおること目的としている。材料に、ラットの脳小血管内皮細胞およびラット大静脈内皮細胞株を用いた。これらの培養細胞に抗リン脂質抗体(ヒト・モノクローナル抗β2-グリコプロテインI抗体:EY2C9)を加えてインキュベートし、細胞からRNAを抽出してDNAアレイを用いてmRNA発現スクリーニングをおこなった。しかし、脳内皮細胞に特異的に発現の多い遺伝子は、EY2C9によって明かな誘導は観察できなかった。そこで、より生理的状態に近い状態で検討した。すなわち、抗リン脂質抗体はAPS患者血清から分離したIgG分画のプールを用い、さらに「血栓準備状態」のモデルとして培養内皮細胞をあらかじめインターフェロンα2aで前処置をおこなってから抗リン脂質抗体を加えた。その結果、脳内皮細胞では大静脈由来内皮細胞に比べて組織因子(外因系凝固因子のイニシエータ)の高発現が観察された。さらにDNAアレイによって脳血管内皮細胞では37遺伝子、大静脈内皮細胞では34遺伝子が抗リン脂質抗体による発現誘導がみられた。これらの血管は、内皮細胞の臓器特異性と抗リン脂質抗体に対する感受性の多様性を反映しており、現在さらに詳細に検討中である。
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