研究概要 |
一般に,メタボリック症候群は40歳代以降において発症率が高まり,65歳以上になると要介護状態になる可能性が高まる.すなわち,メタボリック症候群と要介護状態とが同時に発生する可能性は非常に高く,両者の予防・改善に有効となる方法を考案することは,今後の社会における重要な検討課題である.そこで本研究では,内臓脂肪が体幹部に特異的に蓄積する組織であり,この身体セグメントを対象とする運動が,必然的に内臓脂肪へと刺激を与えることになる点に着目し,体幹部を対象とした運動プログラムの実施がメタボリック症候群の改善ならびに介護予防に有効であるか否かについて検討を続けている. 本年度は,実験1)内臓脂肪量と体幹部骨格筋量との関係(横断的検討)についての測定および分析を行った.被験者は,年齢:40~64歳,体格指数(BMI):30kg/m2以上の男性112名,女性118名であった.被験者の身長,体重,腹囲を測定したほか,(CT(コンピュータ断層撮影)法を用いて腹部における横断画像を撮影し,内臓脂肪,腹直筋群,腹斜筋群,脊柱起立筋群および腸腰筋群の各横断面積(CSA)を算出した.その結果,男性では,内臓脂肪CSAが高値を示すほど,腹直筋CSAを除く各骨格筋群のCSAが有意に低値を示す傾向が認められた.なかでも腸腰筋の相関係数は内臓脂肪CSAの標準化にかかわらず有意であり,内臓脂肪め蓄積と何らかの関連をもつ可能性が示唆された.腸腰筋群は仰臥位での脚の挙上にかかわっており,仮に内臓脂肪の蓄積に伴い減少するのであれば,要介護状態を促進する可能性がある.一方,女性は男性よりも有意に体脂肪率が高いのにもかかわらず内臓脂肪CSAが有意に低く,内臓よりも皮下に脂肪が蓄積する傾向にあり,内臓脂肪CSAの変動性が低いことから,骨格筋CSAとの間に有意な相関が示されなかったものと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は出産・育児により大幅な研究計画の変更を余儀なくされたが,今年度の5月から12月までは研究再開準備支援期間を利用して,短時間ながら研究に復帰し,1月からは本格的に研究を再開することができた.通常よりも研究に割く時間は少なかったものの,年度内に230名分の腹部CT画像の分析を終了し,(研究1)内臓脂肪量と体幹部骨格筋量との関係(横断的検討)についての検討をおおむね終わらせることができた.また,今年度は,「肥満研究」ならびに「Int J Sports Med」へと論文が採択された.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,1年間のトレーニングを終了した後の腹部CT画像の分析を行い,(研究2)内臓脂肪量と体幹部骨格筋量との関係(縦断的検討)を進めていく予定である.研究を遂行していく上での問題点は,トレーニングの実施に伴う運動器(関節,筋肉など)の痛みにより,一次的に運動を中止せざるを得ない被験者が存在したことである.そこで今年度は,画像分析に加えて,被験者への聞き取り調査を行い,運動器における痛みの有無や,運動を中断した期間などについてのデータをまとめる予定である.そのうえで,トレーニングを何事もなく終了した被験者を抽出したうえで分析を行うべきかどうかを判断する.
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