リンは植物にとって重要な元素である。しかし多くの土壌中のリン濃度は低く、野外では植物は恒常的にリン欠乏状態にある。多くの植物は、菌根やクラスター根というリン吸収効率を高める機構のどちらかを持っている。多くの陸上植物が菌根を作るのに対し、クラスター根形成する種は少ない。したがって、クラスター根はリンが極端に少ない環境では有効だが、それ以外では形成や維持にかかるコストが高いため不利になる可能性がある。現在までに、この可能性を検証した研究はほとんどない。マメ科シロバナルピナス(以下、シロバナ)はクラスター根を作るが、ホソバルピナス(以下、ホソバ)はクラスター根を作らない。本研究の目的は、シロバナとホソバの低リン環境に対する応答の違いと、クラスター根形成によってシロバナが得るベネフィットを明らかにすることである。2種を2段階のリン条件下で32日間水耕栽培し、成長と根の呼吸速度、葉と根のリン濃度を調べた。 低リン条件(以下、低P)のシロバナでは、根の乾燥重量の約20%がクラスター根であった。低Pでは、シロバナもホソバも、個体重が高リン条件(以下、高P)に比べ減少した。低Pでも高Pでも、根の呼吸速度(重量あたり)はシロバナとホソバで差がなかった。一方、シアン耐性呼吸は、成熟したクラスター根で高く、ホソバの根で低かった。低Pのシロバナの個体あたりのリン量は、低Pのホソバの約1.5倍だった。重量あたりの根およびシュートのリン濃度はシロバナとホソバでほぼ同じだったが、シロバナのクラスター根のリン濃度は高かった。以上から、シロバナとホソバは低リン環境に対する応答が大きく異なることが明らかになった。シロバナはクラスター根を作ることにより積極的にリンを多く獲得し、低リン環境での速い成長を実現していることが示唆された。それに対し、ホソバは低リン環境で吸収するリン量が少なく、成長が遅かった。
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