研究概要 |
本研究課題では,血液細胞の95%以上を占める赤血球に着目し,力学的に厳密な,今までにない単一赤血球のモデル化を行う.さらに,そこから多数個の解析に発展させることで,血液中に含まれる物質の輸送を定量化することを目的とする. 従って,本研究課題において赤血球のモデル化は最も重要な事項の一つである.ここで,赤血球は核を持たない特殊な細胞であり,細胞膜のモデル化が力学的に重要である.現在,計算生体力学の分野では,バネのネットワークによって,簡易的に赤血球膜の弾性を表現する手法がよく使われている.しかしながら,このようなバネモデルによって表現した膜の力学的な性質は,これまできちんと議論されて来なかった.そこで本年度では,このようなバネモデルの力学的性質を体系的にとりまとめ,バネモデルが赤血球膜を表現するのに適しているのか,またどのような膜のモデルが赤血球膜を表現するのに適しているかを議論した. その結果,バネモデルでは赤血球膜を表現するのに適しておらず,別の膜モデルを適用する必要があることを明らかにした. さらに,優秀若手研究者海外派遣事業(特別研究員)による支援を受け,共同研究者であるバーゼス教授の下で研究に従事している.本研究課題において,計算の安定性は重要な問題である.派遣先受け入れ機関において,境界要素法と有限要素法をカップリングした,研究計画申請時には無かった新しい解析手法を開発中である.この手法により安定した解析が可能であることが既にわかっている.派遣先機関で開発中の新しい手法を,赤血球の変形挙動解析に応用することで,今まで数値不安定のため解析出来なかった領域において解析を行い,新たな力学的見地の発見を目指している.
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