今年度は、必要な追加調査(主に、3ヵ村242世帯すべてについて、その屋敷地の盛り土の高さや家屋の構造を詳細に調べあげ、洪水に対する脆弱度を測定する調査)を現地で実施するとともに、これまで収集した資料・データに本格的分析を加え、2本の異なるテーマの論文にまとめ、それを学会の場で積極的に発表し、論文の質の向上に努めた。ただし、学術誌への投稿が可能なレベルまで引き上げるため、今年度いっぱいは、論文の書き直しに費やした。 論文の1本は、毎年(7~9月にピークに達する)の洪水に対する各世帯の脆弱性、およびそれに対する備えについて、各世帯の生業構造、農地所有と貸借、労働力賦存、教育レベル、家屋の構造、家畜保有、ボートその他輸送手段の所有状況、社会的ネットワークの有無などと関連させつつ論じたもの、もう1本は、全面的な河川侵食で村全体が移住を余儀なくされた過去の経験、および移住プロセスとそこでの問題点などを詳細に論じたものである。チョールと呼ばれる砂州上や侵食の激しい河岸沿いに住む人々にとっては、前者が毎年のように襲われる災害、後者が数年に一度襲われるカタストロフィーであり、両者への対応様式を考察してはじめて彼らの生存戦略が明らかになるという意味で、非常に重要な2つの柱であるということができる。 また今年度行った追加的調査で得たデータは、まだ本格的に利用してはおらず、今後、もう1つの重要な研究成果としてまとめていく予定である。これは、世帯単位で洪水への脆弱度を数量化し、指数を作成することによって、災害防止や災害時の支援の必要などを行政やNGOが把握しやすくするための試みであり、これも非常に重要な成果となる可能性を秘めている。
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