研究課題
基盤研究(A)
本年度は、昨年から継続しているイラン、シリア、ブルガリアでの調査に加え、エジプトのナイル河畔と紅海とを結ぶ歴史的交通システムに関する実地調査を行った。イランでは今回、ザグロス山脈間の平原部をたどるキャラバン道を重点的に調査した結果、ファールス州においては山越えルート同様、平原部のルートが歴史的に極めて重要な意義を持っていたことを確認した。さらにこれまでの調査報告では、単独かつ自立的に存在したかのように記述され続けてきた隊商宿や拝火神殿などが、実はその機能を支える複数の建造物のコンプレックスの中に建造されていた事実を明らかにした。一方、シリアではオスマン朝期の交通事情に関する文書調査および補充的な現地調査を行ったのに加え、英国国立公文書館所蔵の在アレッポ英国領事報告を分析し、19世紀前半の英国調査団によるユーフラテス水系交通事情の実態調査に関する情報を収集した。またブルガリアでは、バルカン半島のイスラム化に果たした交通システムの役割に焦点を絞った現地調査を行った。エジプトでは、古代エジプト以来の歴史を持ちイスラム期にはメッカ巡礼やインド洋交易とも関わる国際交通システムの一環として栄えた、いわゆる東部砂漠越えのキャラバン道を踏査し、その歴史的変遷を確認するとともに、道の拠点としての水場・ハーン(宿泊施設)・砦・聖者廟・墓地などの形態と機能に関する考古学的サーベイを行った。さらに東部砂漠およびスーダン国境の遊牧民社会や聖者崇拝の実態に関する民族学的調査を行い、特に遊牧民が歴史的な交通システムの中で果たしてきた役割に関する重要な知見を得た。
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