研究課題
本年度は、昨年度から継続しているイラン、シリア、エジプトでの調査に加え、クリミア半島と中央アジアの歴史的交通システムに関する資料調査、また、オマーンとアラブ首長国連邦における実地調査を行った。イランでは、シーラーズ周辺の歴史的街道に関する補足調査を実施したほか、カスピ海沿岸のギーラーン州において週市に関わる交通システムの補足調査を行い、主に近郊農村の農産物や日常必需品を扱う週市が不況の中ですら活況を呈している事実を確認した。またシリアについては、ダマスクス歴史資料センターおよびロンドンの国立公文書館において、19世紀シリアにおける交通システムとヨーロッパ諸国の進出過程についての資料調査を行い、エジプトについても18世紀エジプト域内およびエジプト・イタリア間の交通システム変容過程に関する資料調査をカイロのアラブ写本研究所、イタリアのヴァティカン図書館等において実施した。さらにモスクワの中央国立文書館、ペテルブルクの東洋学研究所等において、13〜16世紀のクリミア半島と中央アジアにおける交通システムに関する資料調査を行っている。一方、インド洋・ペルシャ湾と地中海を結ぶ歴史的交通システムを解明すべく現地調査に臨んだアラビア半島南東部、特にオマーンでは、スール地方・パーティナ地方とイエメン国境に近いズファール地方に残る港市遺跡を踏査し、遺跡の規模・形態・出土遺物、港市発達の自然地理学的条件(入り江、背後の山、ワーディーなど)、港市機能を支える聖者廟・墓地・砦・周壁や内陸ルートとの関連、いまに残る伝統的なダウ船などに関する綿密な調査を行った。この調査を通じて、交通ネットワークの接点としての港市(port of trade)が過去と現在に共通して持つ機能と特質について多くの知見を得た。
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