研究課題
国際学術研究
パキスタン北西辺境州マンセーラの北に位置するザールデリー遺跡の発掘調査。今年度は寺院伽藍の北側半分を占める僧院地区において発掘を実施し、伽藍の概要を把握することを目ざした。僧院地区は南北52m、東西85m、域内の西半分には現在、民家が建造されているため、東側のみ調査を行なった。ガンダーラ仏教寺院の僧坊は、多くの僧侶へ供するべく一人用の部屋を整然といくつも並べるのが普通で、四角い敷地の周りに小さな坊を口の字形に配し、中央部は中庭としてそこに方形の掘り込みを設けるのが一般的である。本遺跡の僧院地区東半分にはこの僧坊群にあたり、1室あたり約3m四方の小部屋の列、中央中庭の舗装敷石、ストゥーバ区と僧院区をつなぐ階段の遺構などを発見した。また、1996年の調査の際、カローシュティー文字を記した片岩製石板が数点出土したが、本年もこれと同じ形式で銘文を持つ石板が1点出土した。銘文は、前回出土のものと同じく、ke sa n va nam 〔mi〕と音読でき、その内容はin the forest(=monstary) of Kesariと解釈される。このKesariが何を指すものか今のところ明らかではないが、地名あるいは寺院名を指す可能性が高いと思われる。この石板の出土状況は96年の放棄されていた状態とは異なり、僧院中庭への小階段の踏石として、銘文のある面を下向きにして置かれていた。すなわち、この石材は旧い部材が再利用されたものである。この点からいて、本寺院で増拡事業が行われた可能性は高いと考えられ、寺院の歴史を辿る上できわめて重要な資料を得たといえよう。本発掘調査以外に、アメリカ合衆国並びに中華人民共和国、オランダ王国の各美術館、博物館において、所蔵品の調査、撮影を実施し、ガンダーラ国土遺物の資料収集を行なった。