研究課題/領域番号 |
10041052
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
小長谷 有紀 国立民族学博物館, 民族学研究開発センター, 助教授 (30188750)
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研究分担者 |
松川 節 大谷大学, 短期大学部, 専任講師 (60321064)
松原 正毅 国立民族学博物館, 地域研究企画交流センター, センター長教授 (30110084)
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キーワード | オイラート・モンゴル族 / 中国青海省 / 中国内蒙古自治区 / アラシャン砂漠 / チベット族 / 民族対立 / 水資源 / 砂漠化 |
研究概要 |
平成12年度の調査では、以下の地域で生態学的環境および社会的環境の相互作用に関する聞き取り調査をおこなった。 青海省河南蒙古族自治県では、干ばつ気味であったにもかかわらず、自然環境に関する危機感はあまり見られない。むしろ社会環境が、牧畜システムに大きな影響を及ぼしている。チベット族とのあいだで牧地の争奪をめぐって殺傷事件が生じ、このため、行政区の境界付近に40戸もの牧民が利権を守るために集中して宿営している。 青海省海西地域のモンゴル族は、漢族の農耕化とチベット族の進出の結果、半乾燥ステップでのみ牧畜をいとなんでいる。ここはラクダの放牧に適しているが、労働力に見合うだけの収入が得られないため、多くの牧民がラクダの飼養を止めた。気象変動による雪害や干害よりも、市場経済とリンクしない経営の方が問題になっている。 青海省格爾木市周辺では、都市部での地下水の乱用によって、長期的な草丈の短小化や、湖沼および河川の縮小ないし消失がおこっている。気象の変動による水不足というよりもむしろ、都市化や農耕化による水環境の変化によって、草原部での乾燥化が著しく進んでいることは明らかである。 内蒙古自治区阿拉善盟のエチナ旗では、川はすっかり干上がり、トーロイの木(胡楊樹)も疎林化している。川の上流での取水は、生産責任請負制になって、すでに居住していた漢族のもとへ、その親族と称する人びとが入居し、土地を手に入れ、農耕をするようになってから、顕著になった現象である。 バヤンホト市では、単純に降水量の不足として捉えられているが、急激に都市域が拡大しており、都市部での取水量は格段に伸びていると推測される。 モンゴル高原南部における3年間の実態調査によって、都市化と農耕化のみならず、私有化という社会制度の変容がいかに大きく自然環境に及ぼすかが明らかになりつつある。
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