研究概要 |
ハイテク、バイオテクノロジーの急激な進歩が経済のソフト化をますます加速化させている現代、企業とともに国家の経済成長において、「知的財産権」をいかにポジショニングするのかが、戦略のコアファクターとなりつつある。企業、そして国の競争優位性において、知的財産権ポートフォリオの重要性がこれ程認識された時代はかつてなかったであろう。 過去5世紀に及んで、6大陸に広がり、人々の暮らしや労働のあり方,自己認識、世界観、倫理観に影響を及ぼしてきた「モノ作り」を根底に置く工業化という時代は、ハイテク、バイオテクノロジーの進歩が伴なうIT(情報技術)時代の到来とともに、過ぎさろうとしているかのように思われる。「モノ作り」とは距離を置いた「アイデア」やソフトウェアの媒体自身に排他的独占権が及び、遺伝子情報、遺伝資源自体が排他的に利用できる対象として価値を持ちはじめる時代、企業、そして国家はいかにその競争優位性を確立することができるのであろうか。あまりにも急激に展開してくるこれら新しい現象については、それを規制する政策も、法律もまだまだ不十分な段階である。国際的な合意形成すらできていない。 企業とともに、国家もその競争優位を確立しなければならない現代、どのような対象を、どこまで経営資源としてとり込むことができるのか、また、どこまで経営資源としてとり込むことが許されるべきなのか、経営学に課されつつある課題はあまりにも大きい。 本研究においては、主に米国、ドイツ、インドにおいて展開された問題点を、時折日本における議論も考慮に入れて検討し、その大きな課題のほんの一部にとり組んだつもりである。諸国における問題点の整理を通して考えることは、製造業中心の知的財産戦略が、脱製造業中心の知的財産戦略へと転換を遂げている現実にあたっては、製造業中心に構築されてきた経営学そのものも、大きなパラダイムシフトを迎えているということである。ビジネスモデルが特許の対象となり、遺伝情報が特許の対象となる現在、製造業中心に構築されてきた経営学のままでは、それに相応しい知的財産戦略を提示することはもはや不可能に近いのではないだろうか。分子生物学、遺伝子工学、システム工学等の自然科学分野はもとより、法学、社会学、倫理学、哲学との融合による複合的領域を創造し、そこに柔軟に往来しつつ、IT時代の経営学を確立しなければならない、現代経営学はそういう時代にあるのではないだろうか。
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