研究概要 |
目的:バンコクの交通渋滞による大気汚染の健康影響を調べるため、沿道の浮遊粒子(PM)濃度を明らかにするとともに、沿道大気に曝露する機会の多いバンコク中心部に勤務する交通警察官と郊外農村地区で働く警察官の呼吸機能、呼吸器自覚症状の比較・検討を行った。 方法:1.環境測定-沿道警察官詰所内外および沿道測定局に小型粉塵サンプラーを設置し、浮遊粒子(PM10、PM2.5)濃度を測定するとともに警察官に個人サンプラーを装着してもらい、就業中の個人曝露量を測定した。2.呼吸機能検査-1998年12月〜99年3月にバンコク中心部の交通渋滞地区およびバンコク郊外にアユタヤ地区に勤務する男性警察官を対象に、スパイロメーターを用いた呼吸機能検査と自記式質問票(タイ語版ATS-DLD)を用いた呼吸器自覚症状調査を行った。3.バンコク市内の交通警察官を汚染程度により3地区選び、ATS-DLDを用いて非特異的呼吸器疾患(NSRD)の有病率の地区間比較を行った。 結果:1.交通渋滞の激しい市内4交差点沿道の平均PM10、PM2.5濃度は郊外地区の2培以上あり、交通警察の個人曝露量は沿道濃度と同レベルであった。タイ環境汚染管理局(PCD)の環境測定データとわれわれの実測値には、よい相関が認められた(r=0.88,n=11、p<0.01)。2.呼吸機能検査では、FEV_1%(一秒率)がバンコク群で有意に低く、年齢と身長、ブリンクマン係数を共変量とした共分散分析ではV_<25>がバンコク群で有意に低値であり、FEV_1、%FEV_1(Obs/Exp)、V_<50>、MEFR値は両群間で差異は認められなかった。呼吸器自覚症状の有症率はバンコクの警察官群で高い傾向にあった。3.高汚染地区のNSRD有病率は非禁煙者において、郊外地区より有意に高かった。 考察:バンコクとアユタヤで勤務する警察官の呼吸機能に顕著な差異は認められなかったが、バンコクの交通警官では、末梢気道抵抗の増大が示唆された。本調査の吸機能指標値の解釈にあたり、Healthy worker effectその他の選択バイアスの可能性を考慮する必要がある。
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