バンコクの交通渋滞による大気汚染の健康影響を調べるため、曝露機会の多い交通警官を対象とし、1.浮遊粒子(PM)への曝露程度を直接の測定と環境データの解析、2.バンコク中心部の交通警察官と郊外地区警察官の呼吸機能の比較、3.交通警察官の曝露程度別呼吸器自覚症状の比較の3研究を行った。 方法は、1.沿道警察官詰所内外および沿道測定局で浮遊粒子(PM10、PM2.5)濃度を測定するとともに警察官の装着した個人サンプラーで、就業中の個人曝露量を測定した。2.バンコク中心部の交通渋滞地区および郊外アユタヤ地区に勤務する男性警察官の、スパイロメーターによる呼吸機能検査と自記式質問票(タイ語版ATS-DLD)を用いた呼吸器自覚症状調査を行った。3.バンコク市内の交通警察官を汚染程度により3地区選び、ATS-DLDを用いて非特異的呼吸器疾患(NSRD)の有病率の地区間比較を行った。 その結果、1.交通渋滞の激しい市内4交差点沿道の平均PMl0、PM2.5濃度は郊外地区の2倍以上あり、交通警官の個人曝露量は沿道濃度と同レベルであった。タイ環境汚染管理局(PCD)の環境測定データはわれわれの実測値とよく相関していた。PCDによるPMl0が環境基準値の120μg/m^3を超えている日数は、最大44%に達した。PMはSO_2よりもNO_2とよく相関し、自動車が汚染源と考えられた。2.呼吸機能検査では、FEV_1%(一秒率)がバンコク群で有意に低く、年齢と身長、ブリンクマン係数を共変量とした共分散分析ではV_<25>がバンコク群で有意に低値であった。3.喫煙者・非喫煙者とも年齢で補正したNSRD有病率は高汚染地区が郊外地区より高く、非喫煙者においてその差は有意であった。 以上の結果はバンコクにおける更なる大気汚染対策の必要性を示している。
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