オーストラリア国においてライム病原因ボレリアを保有媒介すると推定されるマダニの生態調査と捕獲を行った。さらにこれらのマダニからボレリアの分離培養と、マダニの遺伝的同定を行った。 マダニの捕獲場所はシドニー市近郊のライム病様患者発生のみられる地域の公園、サンクチュアリー、リザーブ、牧場である。これらの地域において平成10年10月12日から19日の間に、6日間延べ10回の捕獲を行い、112匹のマダニを得た。内訳はLxodes属成虫61匹、若虫38匹、Amblyomma属成虫2匹、若虫3匹、幼虫2匹、不明マダニ種5匹である。 オーストラリア国は砂漠が国土のほとんどを占め、樹木の生育がみられるのは南東部海岸地帯のみである。ライム病ボレリアを保有媒介するマダニ類は森林地帯を好み、供血動物の存在も必須であるためにこの国での分布地域は限られるが、この地域は同時にヒトの居住に適した場所でもある。このためこの地域での宅地開発が進み、マダニ生息環境は次第に限定縮小傾向にあり、マダニの分布密度は非常に疎であるとともに分布種も単純であった。マダニ優占種はIxodes holocyclusで、成虫5匹のITS2塩基配列比較からこれらの地域に生息するマダニはclonalであることが裏付けられた。すなわちこの調査地域ではマダニ生息地は飛び石的で、比較的広い場所では小脊椎動物が生息しておりそれぞれの発育段階のマダニが見らるが、狭い場所では成虫のみが生息する。公園、リザーブなど狭い場所では野鳥が供血動物となるとともにマダニの遠隔地運搬しているものと考えられる。得られたマダニからボレリアの分離培養を試みたが現在までにボレリア細菌は得られていない。
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