絶滅危惧種のゴリラとパンダの繁殖に関する行動資料の収集を飼育繁殖施設において行った。 ゴリラの場合。アメリカの2施設(オハイオ州コロンバス動物園とカリフォルニア州サンジエゴ・ワイルドアニマルパーク)で、集団成員の社会関係の把握を行うとともに、生後1歳から4歳までの子どもに対する母の世話・養育行動を分析した。観察が行われた2施設では、おとなのメスがそれぞれおとなオスとの関わりを維持しているが、他方、血縁のないおとなのメス同士では関わりが少ないという野生集団に類似した傾向が確認できた。35歳を超える高齢のメスも定期的に発情し、オスとの交尾が確認できた。他方、父と娘の交尾は生じず、娘は集団内の異血縁の若オスとの交尾を行うことができた。母から養育放棄されて人によって育てられた子供も、2歳までには集団内に統合され、種に固有の行動の学習が促進された。これは、オトナになってからの繁殖行動が可能であることを示唆している。さらに、アトランタ動物園、ブロンクス動物園(ニューヨーク)、国立動物園(ワシントン)のゴリラ集団についても、短期間の観察と当該施設の研究者との情報交換を行い、ゴリラの飼育下での繁殖の問題を広く検討することができた。 パンダの場合。上野動物園のオスとメスの2頭の繁殖期の行動が観察された。得られた資料は前年度に観察された非繁殖期の資料と比較された。飼育環境内を探索する定型的な(ステレオタイプ)行動パタ-ンを繰り返すことが確認された。さらに、これらの行動の生起と大勢の観光客、観光客が発するきょう声、大声などが関係していることが行動分析から示唆された。
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