目的。本研究は、公立保育園の乳児の保育において伝えられる社会文化的な価値や考え方に関して日本とフランスの場合を比較することによって、初期の社会化過程の一端を明らかにするとともに、両国の保育を相対化し、乳幼児教育への新しい視点を得ることを目的とする。 観察と調査の方法。(1)東京、パリ市内と周辺の公立保育所各6園の0-2歳時クラスの観察とビデオ撮影。ターゲット児に関する大人、他児、環境を1日の登園から昼寝まで連続的に記録。(2)園長と職員に対する。保育の現状、規則、保育所の環境保育についての考え方、問題点他42項目についての情報収集。 観察データに基づく分析。日仏両研究者が共同で両国1園ずつの映像を比較検討し、これを6つのペアについて行い、以下に表れる価値観の形成に関する分岐点を特定し、仮説を設定した。これに基づき、映像の数量的分析およびエピソード分析を行い、なお継続中である。(a)物理的な次元:(1)空間の使い方(2)身体接触と距離の観念(3)物と人の関わり方(b)生活習慣の概念:(4)食事、睡眠の概念(5)衛生の概念(c)善悪・道徳行動を通した価値観の伝達(6)保育者のほめ、禁止行動(7)子ども間の葛藤への対処(d)自己と人間関係についての考え(8)個人と集団の扱い方(9)大人と子どもの関係(10)自己主張(e)ことばの位置づけ。(f)保育所保育の考え方(11)過程保育と保育所保育の関係(12)親と保育者の関係。 分析から明らかになったことの中から数点を挙げる。(1)伝統的子ども観の保育への影響や家庭教育と保育の連続性に両国で相違があり、それは保育者を子どもの関係に反映している。(2)空間の使い方や座り方のような文化的な違いは大人・子ども関係にも影響している。(3)日本の保育者は子どもとの人間関係を重視し、フランスの保育者は物による環境を与えてそのなかで子どもの自発性を重視している。(4)日常の生活習慣では睡眠の概念が両国で非常に異なる。 インタビュウに基づく分析。観察データを補うものとして日常の保育情報制度的、文化的な情報を比較検討する。
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