1998年には、小林が、フランスで両名と、アメリカでRadmanと、共同研究うち合わせを行った。1999年には、Radmanを招聘し、日本生化学会大会で、小林の企画したシンポジウム「ゲノムはなぜ変わるのか?」で講演して頂いた。同じく、1999年には、Kowalczykowskiを招聘し、3Rシンポジウムで講演して頂いた。 この間、小林らは、Radmanグループ、Kowalczykowskiグループと、eメイルなどで密接に連絡をとって、実質的な共同研究を進めた。特に協力・相互作用が見られる研究成果をリストする。 (1)制限修飾系への対応戦略としての細菌の相同組換え。 宿主のRecBCD/Chi分解組換え系が、制限修飾遺伝子による染色体切断と細胞死に対して抵抗する過程を解析した。 RecBCD酵素によるカイ配列の認識が、分解から修復へのスイッチに重要であることを示した。 Kowalczykowskiグループと共著論文としてまとめられた研究では、RecCスターという変異酵素が、カイ配列を認識しないで「カイスター」配列を認識するようになることを示した。これは、細菌ゲノムによる「自己」認識の変化と考えられる。 (2)制限修飾系への対応戦略としての相同組換え:バクテリオファージの相同組換え系。 バクテリオファージラムダのもつ組換え機構と類縁ファージの組換え機構が、in vivoでの制限酵素による攻撃を修復することを、単純かつ定量的なアッセイ系で示した。 (3)自然条件で起きる染色体切断の修復。 自然条件で起きる染色体切断を、これらの相同組み換え機能が修復していることを、パルスフィールドゲル電気泳動で示した。 (4)ミスマッチ修復遺伝子の存在理由。 大腸菌のdcm遺伝子が、ゲノムをメチル化してある種の制限修飾遺伝子の攻撃から守っていることを証明した。Dcmに隣接するvsrによるミスマッチ修復機能は、このメチル化による変異生成を防止することが知られている。Dcm-Vsrは、制限修飾遺伝子に対する分子ワクチン機能を持つことになる。 (5)ミスマッチ認識系と疑似相同組換え。 小林らは、ランダムウォークモデルをミスマッチによる破壊を含む場合へ一般化し、ミスマッチ認識酵素の変異による不在およびその過剰発現が、相同組換え頻度のホモロジー長さ依存性、ホモロジーの完全さへの依存性に及ぼす影響を解析したRadmanらのデータの説明に成功した。
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