研究概要 |
本研究計画では、フランス、米国、日本の研究者の間で、また、理論・実験研究者の間で密接な研究交流を計りながら、スピングラスを中心とした'ガラス的な系'における平衡・非平衡ダイナミックスを規定する'ゆらぎ'の本質を解明する研究を進めた。種々の課題に対する個別的な研究を関連メンバーが協力しながら進展させ、それぞれの成果を全体研究集会-Royaumont(仏,10月1998年)、京都(10月1999年)-を開催して全メンバー間で討議し、ガラス的な系におけるゆらぎに共通する普遍的な概念の構築を目指した。以下はその主な研究成果である。 1)スピングラス(SG)におけるエイジング現象に関して:a)熱残留磁化の精密測定からSG相関長を抽出し、その成長則を実験的に決定した(Orbach)。b)SGは、温度シフト・サイクルを伴うエイジング過程において一見相矛盾する'若返り効果'と'記憶効果'を示す。これらを位相空間の視点から説明する理論を提起し(Bouchaud)、また、同様の視点から'階層的ランダムエネルギー模型'を提起し、二つの効果の詳細を数値的に検証した(根本)。c)一方、EA模型における同現象に関するシミュレーションを行い、その結果が実スピン空間で構築された液滴描像とよく一致することを明らかにした(高山)。2)SGと不均一な強磁性体・強誘電体とのエイジング現象を比較し、後者はランダムなピン止めポテンシャル中のドメイン壁の拡散と消滅によるものとする理論を提起した(Bouchaud,Cugliandolo)。3)ガラス的な系における相転移、あるいはそのゆらぎ特性に関した、以下の課題について新たな知見が得られた:情報の確率的処理法へのSG平均場理論の展開(西森)、ベクトルSGと高温セラミック超伝導体におけるカイラルガラス転移の理論の構築(川村)、セラミック磁性体と超伝導体における新しいタイプの相の提起と検証(松浦)、SGやポリマーガラスなどに共通する引伸ばされた指数関数型臨界ゆらぎの検証(Campbell)、ガラス的な系の相転移に対する不均一性効果のゆらぎ測定による解析(Weissman)。
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