研究概要 |
本研究は国際学術研究として採択され、基盤研究B(2)となった。本研究では陽子や中性子のスピン1/2が、クォークやグルーオンによってどのように構成されているかを実験により調べた。強い相互作用の理論である量子色力学の具体的な研究である。 実験手法としては、ドイツのDESY(ドイツ電子シンクロトロン研究所)のHERMES実験において、高エネルギーの電子ビームを核子標的に散乱させ、終状態の電子と発生したハドロン(中間子や核子、Λ粒子など)を同時計測して従来にない包括的な研究をした。そのデータは共同研究の各大学・研究所に送られて解析されたが、東工大のデータ解析装置は主要な役割を果たし、結果は論文として発表されている。 本研究期間中に、ハードウェアとしてはリングイメージングチェレンコフ検出器(RICH)を開発してHERMES実験に組み込んだので、ハドロンの中のパイ中間子、K中間子、陽子、反陽子を粒子識別できるようになった。これにより核子の中で偏極したu,d,sクォークがどのような運動量分布をしているかが解明できるようになった。特に、パイ中間子とK中間子の識別は数GeV/c以上では従来は困難であったが、HERMES実験でこれをRICHによって解決したので実験手法上の革新があった。 物理の成果として一番大きなことは、核子のスピン方向に対して横偏極しているクォークの分布関数を求めることが可能になったことである。これは、電子散乱の散乱平面とパイ中間子が発生する方向とがなす角度に注目して、標的核子のスピン方向を反転させたときにどう変化するかを観測することによって実現したものである。これは今後新しい研究分野として広い研究対象になると予想される。
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