本研究では、節足動物色覚に関する理解を深めるため、日本とオランダの研究期間に所属する研究者で研究グループを組織した。研究目的は、チョウ類の色覚機構を国際的共同研究で解明することで、下記のような成果が得られた。 チョウ類に於ける個眼多様性の一般性 アゲハで知られていた3種類の異なるタイプの個眼のランダム分布しているという現象は、他種のチョウ類でも一般的に見られるということがわかった。これは台湾のフィールドで、約50種のチョウ類を採集、同軸落射照明顕微鏡で複眼のタペータム反射(成果報告書本文参照)を観察した結果わかったことである。 この結果に基き、今後より詳細な研究を行なう種を選定し、予備実験に取りかかった。 アゲハ複眼における色受容細胞分光感度の発現機構の生理学的・分子生物学的解析 アゲハ複眼には極めて鋭い分光感度を示す紫受容細胞がある。その分光感度の起源を、生理学的および分子生物学的実験によって解明した。細胞は光受容分子として紫外線受容型の視物質を含み、それが特殊な紫外線吸収フィルターの影響を受けることによって紫にピークのある特異な分光感度を生成していることがわかった。さらに、アゲハ複眼近位部に、これまでに同定されていなかった新しいタイプの分光感度を発見した。この分光感度には、(1)紫外領域に感度がない、(2)可視光領域の感度は半値幅が230nmにもおよぶ、という2つの著しい特徴がる。偏光感度測定と細胞内染色を行なったことろ、この分光感度は近位視細胞R5〜8のうちひとつから記録されているものとわかった。単一視細胞としては異常に広い (Avnormally broad)分光感度なので、われわれはこの細胞をA細部と名づけ、その分光感度生成の生理学的機構を解明した。
|