研究概要 |
1.超臨界流体中の電子移動度μの測定 超臨界エタン中のμを温度33-47℃,圧力40-120barの範囲で測定した。μは圧力増加と共に指数関数的に減少し各温度で極小を通過するが,臨界点に近い33℃,48bar付近で最も顕著である。この領域で圧縮率は極大を示し,極小付近のμ値の大きさ(50-100cm^2/Vs)から過剰電子は準自由状態にあることは明らかであるから,この極小は圧縮率極大=密度揺らぎ極大による散乱の結果である。 2.電子付着反応速度の測定と付着・脱離平衡定数の決定 超臨界エタン中で,CO_2,ピリミジン,ピラジン,スチレン,NOについて測定。CO_2,ピリミジン,ピラジンの場合,レーザー電子線加速器からの10ピコ秒パルス照射により電子付着-,脱離反応速度を測定できたが,スチレンについては高濃度でもこのパルス幅では付着反応を観測できなかった。前3者の溶質について付着-脱離平衡定数を温度・圧力の関数として決定,ΔG_r,反応体積変化ΔV_rを求めた。いずれの値も圧縮可能連続体モデル(Compressible Continuum Model)により求めた理論値と良い一致を示す。特に圧縮率極大領域におけるΔVrの-9l/molにも及ぶ鋭い極小もこのモデルは定量的にも正確に再現するので,ΔVrに対して電縮効果が支配的であり,電子付着によって生成するイオンの部分モル体積とΔVrがほぼ等しいと結論できる。同様に,小さいNOの場合は生成するNO^-の分極エネルギーが大きくΔGrが著しく負になるため,脱離反応は起こらないことを示した。 3.イオン移動度の測定 超臨界エタン及びキセノン中の陽イオン移動度及び超臨界CO_2中の陽・陰イオン移動度を測定した。エタン中のイオン・クラスターは上記の臨界点付近で急激に増大しStokesの関係式から推定した半径値は1.5nmにも達し,CC-Modelによる計算値も同様な値を示す。CO_2中では臨界圧以上でほぼ等量の2種類のイオン(クラスター)の存在が電流シグナル減衰から示され,早い方が陰イオンと思われる。このイオンのStokes半径は0.36nm,遅いイオンの半径は0.61nmである。予備的測定に依れば,キセノン中の陽イオン移動度はエタン中の場合より低くクラスター半径の最大値は1.2nm(293K)である。
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