研究概要 |
生体内一酸化窒素(NO)に関する研究は、NOが演じている生理的・病理的作用の解明や、バイアグラ等の「薬」の開発に貢献している。NOが関係する多様な作用を評価するためには、細胞、組織、器官におけるNOの濃度と分布に関する知見が必須である。電子スピン共鳴(ESR)装置または電子常磁性共鳴(EPR)装置は、マイクロ波と磁場を利用した不対電子を持つ物質(フリーラジカルや常磁性金属イオンを含む化合物)を、特異的に測定できる装置である。NOのような不安定で短寿命のフリーラジカルをESRで検出する方法として、スピントラップ法がある。 1.本研究の代表者らはNOと結合して安定なラジカルを生成するスピントラップ試薬として斌貴なジチオカルバメート鉄錯体を報告した(1995年)。NOを分析する対象となる系は、in vivo,ex vivo,in vitroと多様であるが、本研究では、ジチオカルバメート鉄錯体をNOトラップ試薬としてin vivoにより近い系での計測を行い、NOの生理的・病理的作用の検討をした。 2.本研究は、平成10年度に文部省科学研究費(国際学術研究)の補助を受け、米国のオクラホマ医学研究所の古武弥成博士のグループとの共同研究という形態でスタートした。古武博士のグループは、生体内で産生されるNOをジチオカルバメート鉄錯体をトラップ試薬として電子スピン共鳴法で評価するとともに、活性酸素ラジカルを捕捉する試薬として有名なフェニルブチルニトロン(PBN)の薬理効果を解明する研究を行ってきた。彼らは、PBNが誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現を阻害することを既に報告している。iNOSは過剰のNOを産生して種々の疾患・炎症に関与することが知られているが、過剰のNOをPBNの投与によって抑制することができれば、疾患の治療につながるはずである。このような観点から、本研究ではPBNの薬理作用の詳細を検討した。 本研究では、新規なNOトラップ試薬をERSスピントラップ法に適用することにより、in vivoの多様な対象中のNOを評価し、生体内NOの生理作用・病理作用の解明に一石を投じることができた。またPBNの薬理作用の詳細を研究することによって、炎症性疾患の治療薬としてのPBNの可能性を明らかにすることができた。
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