研究概要 |
名古屋大学では,これまでにアルカリ水溶液に対するシリコンの全方位にわたるエッチング速度の精密測定を行ってきた.この結果,マクロなエッチング現象と原子レベルの従来理論による定説との隔たりが大きいことを指摘した.本研究では欧州の理論研究者と協力し,名古屋大学の実験値を使って彼らのモデルのパラメータを定量化し,それぞれの理論を比較検証した.以下に研究成果を列挙する. (1)トエンテ・ナイメーゲン大学の提案する結晶表面ステップモデルでは,結晶異方性エッチング特性のうち,(100)近傍および(111)近傍のエッチング速度の方位依存性を,ある程度記述できることが判った.ある特定のエッチング条件では,9個のパラメータを使って全方位のエッチング速度を5%以下の誤差で近似できた.この成果を上記大学と名古屋大学との連名で2つの国際会議で発表した.さらに論文1件が国際学術誌に掲載決定された. (2)LAAS/CNRSのシリコン表面原子結合エネルギー変化を考慮したシミュレーションの結果は,KOH水溶液よりもTMAH水溶液のエッチング速度の結晶方位依存性の実験結果に近いことが判った.しかし,現状では,エッチング条件によって大きく変化する全方位の特性を説明することはできていない. (3)エッチング中に粗面化したシリコン表面は特定の結晶方位からなる多面体を呈し,エッチング速度の方位依存性と関連があることが認められた.TMAH水溶液でエッチングした(110)表面の様態はフラクタル表面を呈するが,観測領域の一辺の寸法が約1μmを境としてミクロ領域とマクロ域とで様相が異なることが判った. (4)結晶異方性エッチングに関する国際ワークショップを共同研究メンバーで組織し,平成10年を第1回としてオランダで開催,平成12年にフランス,平成14年に日本でそれぞれ開催することを決め,国際的なネットワークづくりを進めた.
|