本研究では、シリコン表面上に形成される極微構造の形成を制御し、かつその過程の動的な観察をすることにより形成メカニズムの解明を試みるのが目的である。 いずれも実験は動的観察が可能な低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)を世界で初めて開発した共同研究者のBauer教授の研究室に設置されているLEEMを用いて実験を行った。実験は主に若手研究者である安江が担当し、その結果を越川とBauer教授が検討を行った。 Si(111)の温度を比較的低温である300-400度に保ち銅を蒸着していくと、銅の2次元的な"5x5"不整合構造の小さなドメインがステップエッジ、ドメイン境界ならびにテラス上に形成される。テラス上のドメインの数密度は温度と被覆度に依存する。しかし高温(約600度)になるとこの2次元ドメインはステップエッジのみから成長する。シリコン表面上の拡散距離が温度により異なるためである。Si(111)上のダングリングボンドを水素で終端して銅原子の拡散距離を増加させることにより3次元の極微構造を作製した。試料の温度を360-380度に保ち銅を蒸着するとステップエッジ、ドメイン境界、テラス上に3次元の極微構造(20-60nm)が形成された。テラス上の数密度とサイズはは温度と被覆率に依存する。温度が450度程度になるとシリコン上の水素の脱離が生じるため、清浄なSi(111)と同様な2次元層が形成される。このように超高真空内でかつその場で動的観察を行うことにより、単原子ステップやドメイン境界を観察しながら、それらへの極微構造の形成過程を観察した。その結果その形成過程の一端を解明することが可能になった。このように水素を用いて表面での拡散長を制御することにより極微構造のサイズを制御できることを示すことができた。この方法は他の物質にも応用することが可能であると考えられる。
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