研究概要 |
細胞性粘菌を発生系をモデル実験系として用い,細胞周期上の増殖/分化のチェックポイント(PS点)からの分化に伴い,rps4(リボゾームタンパク質サブユニットS4)を含むミトコンドリア遺伝子クラスター(dia3)が特異的に発現し,rps4遺伝子を部分的に破壊すると,分化に必須のcAMPレセプター1(car1)の発現が抑制され増殖から分化への移行が大幅に遅れること,一方,rps4を過剰発現させるとcar1の発現が誘起され分化が促進されることを明らかにした.また,PS点からの分化に伴って特異的に発現する2つの新奇遺伝子,dia2とdia1に関して,前者は分化を促進し,後者は意外なことに分化の進行をむしろ抑制することを見い出した,これに関連して,アンチセンスRNAによるdia1の不活性化はcar1などの分化関連遺伝子の早期発現を誘導し,その結果として分化の開始もしくは進行を早めることを見出した.他方,ある特定な拘束条件下(二次元細胞集団培養系)では,明瞭な外層(暗層)・内層(明層)のパターンが急速に形成され,外層では主として酸化的リン酸化によるATP生産を伴う呼吸が,内層ではシアン耐性呼吸が行われていること,そして,この際,細胞の分化は外層でのみ位置依存的に起こり,内層ではいったん分化した細胞も急速に脱分化すること,また,この二次元系において,チューリング・タイプのパターン形成(自発的な対称性破壊)が認められるのを生命システムで実証することにはじめて成功した.須藤は,粘菌細胞の走化性や細胞質分裂にかかわる遺伝子をREMI(restriction enzyme-mediated integration)法によりいくつか単離し,それらのうちの1つであるamiB遺伝子は新奇の遺伝子であり,この遺伝子はcAMPシグナリングに必須のアデニル酸シクラーゼ(ACA)の発現誘導を介して分化の開始に重要な役割を果たすことを明らかにした.
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