研究概要 |
(1)ニワトリ卵母細胞のランプブラッシ染色体上のクロモメア(染色小粒)と反復配列ファミリーとの対応関係:ニワトリの大部分の品種ではW染色体の約65%の領域はXhoIファミリー、EcoRIファミリー反復配列からなるが、ファヨウミ(エジプト種)ではXhoIファミリー含量が約1/6であること、EcoRIファミリーには高反復型と低反復型があることを利用して、両反復配列のプローブを用いて反復回数の異なる品種および個体のランプブラッシ染色体に対して蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を行った。その結果、両反復ファミリーがそれぞれ異なったクロモメアを形成することが示された。 (2)ニワトリZ染色体上のDMRT1遺伝子に関する研究:研究協力者のM.Schmid教授,I.Nanda博士(ドイツ、ヴュルツブルグ大学)はこれまでにクローニングされたニワトリZ染色体(雌雄共通の性染色体)上の遺伝子の多くが、ヒトでは9番染色体(常染色体)に存在することに注目した。特にDMRT1遺伝子は、その変異によりヒトではXY性染色体構成を持ちながら表現型が女性化することで、雄性の分化に関与することが推定されており、そのホモログがニワトリではZ染色体上にあることから、ニワトリでも雄性分化に関与するのではないかと推定されている[I.Nanda et al.Nature Genet.21 : 258-259(1999)]。我々はニワトリZ染色体上のDMRT1遺伝子のごく近傍にMHM領域と名づけたBamHI2.2kb配列が反復した部位を見いだし、この配列が雌の1本のZ染色体上では低メチル化修飾で、活発に転写され、転写されたRNAが核内の転写部位近傍のDMRT1遺伝子部位に接するように集積すること、雄の2本のZ染色体上では共に高メチル化修飾を受け、転写されないことを見いだした。このMHM-RNAの集積が雌でのDMRT1遺伝子の転写抑制に関与するのではないかと考え、このモデルを検証するべく実験を進めている。 (3)ニワトリW染色体上のWpkci遺伝子の発見と機能解析:雌の5日胚のcDNAライブラリーから、雌胚特異的に発現するクローンを単離し、その塩基配列がPKCI(protein kinase C interacting protein)遺伝子のものと類似していることからWpkciと名づけた。WpkciはW染色体の非ヘテロクロマチン末端部に位置すること、ニワトリのPKCI遺伝子はZ染色体の長腕セントロメア近くに位置することがFISHにより示された。GFP-融合タンパク質としてWpkciをニワトリ胚由来の繊維芽細胞で発現させると核に局在した。雌胚中ではWpkciとPKCIがヘテロダイマーを形成して、PKCI機能を妨げることにより、雌の性分化の引き金が引かれるのではないかと考え、それを実証すべく研究を進めている。
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