本研究の目的はP型イオンポンプによる能動輸送のメカニズムを構造面から理解しようとするものであった。計画立案時には、結晶が小さく、電子顕微鏡による解析しか不可能であったが、X線結晶解析に適用しうる三次元結晶の作製に成功したため、将来の発展を考え、部位特異的変異体の構造解析のための準備に重点を置くことにした。そのため、アデノウイルスによる発現系を用いてカルシウムATPaseの大量生産に成功している、米国メリーランド大学イネシ教授との共同研究を中心に据えた。カルシウムATPaseは分子量11万の膜蛋白質であるため、同教授グループしか構造解析に必要な量の産生に成功しているグループはないからである。この目的のために、代表者が一度渡米、イネシ教授側が3度来日して、研究の打ち合わせを行った。特に問題となったのは、培養細胞からの抽出精製方法である。イネシ教授側の最初の来日時に、代表者が結晶化の為に改良してきた精製法を収得して貰い、培養細胞系に適用した。その結果、従来の色素カラムによる精製方法では、純度の点で不十分であることが判明したため、改良を検討している。また、カルシウム存在下の構造に関し高分解能でのX線結晶解析がほぼ終了したため、その結果をイネシ教授側が行ってきた、カルシウム結合に関与した部位特異的変異体を用いた実験結果の解釈に利用することが出来た。これらの実験は相補的であり、大変有意義な成果をもたらした。この結果は共同の論文として、現在投稿中である。また、この過程で、共同で総説を書くことが出来た(印刷中)。
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