牛卵母細胞を用いて体外成熟、受精、発生培養の全行程をCR1aaとCR2aa液で行い、培養液内へのソマトトロピンの添加の有効性を調べた。また、培養器は開発した簡易炭酸ガスの精度を高め、安定した陰圧気相条件が得られるように改良して用いた。その結果CR1aa液ではソマトトロピンの200μg/mlで良好な成績が得られたが、CR2aa液ではソマトトロピンを添加しないか、添加量の低い50μg/mlで良好な成績が得られた。このようにCR1aaではソマトトロピンが卵母細胞の核の成熟を促したことが明らかにできたが、CR2aaではソマトトロピンの有効性がみられなかった。これはCR2aa液内へ含まれるアラニンとグリシンの効果と考えられた。一般に培地中の酸素濃度が高いと活性酸素により、胚の発生が阻害される。本研究ではCR1aaとCR2aa液にタウリンを添加して用いたが、CR2aa液に含まれるアラニンはタウリンによる胚の活性酸素阻害阻止効果を高めたことが実験結果から推察できる。 本研究で用いた簡易炭酸ガス培養器では-200〜-300mmHgの陰圧気相条件を与えることによって酸素濃度が20%から14%へと低下した。20%の酸素濃度では細胞への活性酸素の影響で胚の発生に悪影響を及ぼすが、培養液へのタウリン添加により改善される。これに加えて酸素濃度が14%へ低下すれば、卵母細胞の成熟、受精、発生へより理想的な気相条件が与えられることになる。しかし陰圧気相が胚の発生に有効とした実験はこれまでに無く、これを支持した報告も無い。本研究では生体雌生殖器は発情時に子宮や卵管が緊張する現象から、この時期、これらの生殖器がある程度の圧力下に置かれているという仮説を立てた。そして培養器内を陰圧にした場合とそうでない場合とで牛卵母細胞を用い、体外成熟、受精、発生培養を比較した結果、陰圧気相で良好な成績が得られた。
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