研究概要 |
ヒトやマウスがもつ精巧な自己・非自己識別システムは,長い時間をかけて行われた試行錯誤の結果,形成されたものであり,言うまでもなく「進化」の所産である.したがって,システムの全貌を総合的に理解するためには,ヒトやマウスのみを研究の対象としていたのでは不十分である.そこで,本研究では,ヒトから魚におよぶ脊椎動物を研究の対象として,自己・非自己識別システムの構造・機能,由来を探ることを目的とした.研究代表者は,プロテアソーム遺伝子群を解析することにより,主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域が大規模な染色体重複によって形成されたものであることをあきらかにした.MHC領域をまきこんだ染色体重複は今から4億年以上も前に,有顎脊椎動物の共通祖先に起こったものと想定され,ゲノム重複の一環として起こった可能性が強く示唆された.分担者の一人であるFlajnikはアフリカツメガエルMHCのゲノム構造の解析を推進するとともに,軟骨魚類で同定されたNAR遺伝子の多様性形成機構に関し新知見を得た.Du Pasquierは胸腺皮質リンパ球に特異的に発現される免疫グロブリン超遺伝子族CTXに関する研究を精力的に推進し,本超遺伝子族に属する多数の新規遺伝子をヒトにおいて同定した.また,同じく分担者の一人であるKaufmanはニワトリMHCの全塩基配列を決定し,ニワトリのMHCにはプロテアソーム遺伝子が存在しないこと,NK receptor様のC-typeレクチン遺伝子が存在することなど,多くの興味深い知見を得た.
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