紫外線損傷を光のエネルギーを使って修復する光回復酵素はバクテリアや昆虫、魚、さらに有袋哺乳動物であるカンガルーにまで分布しているが不思議なことにヒトなどの胎盤哺乳動物では痕跡も見つからなかった。数年前に我々はヒトデータバースに光回復酵素のホモローグ遺伝子を見つけた。その後、もう一つのホモローグが他の研究者により見つけられ、DNA修復活性が無かったことから、同じような性質をもつ植物の青色光受容体の名にちなんでCRY1及びCRY2と名付けられた。我々はこれらの遺伝子の機能を知るために、各々の遺伝子を欠くマウスを作成し、更にそれらを掛け合わせてダブルノックアウトマウスを作成した。動物で光受容体として」機能する可能性のあるもののとして、日周リズムの光受容体があげられる。そこで、これらのマウスの日周リズムを調べたところ、正常なマウスでに恒暗条件での1日は23時間であるところがCRY1-/-マウスは22時間に、CRY2マウスは24時間に短縮あるいは延長していた。驚くべきことにダブルノックアウトマウスは、恒暗条件にするとすぐさま、ほぼ無秩序に活動を始め、このマウスの体内時計が消滅していることが明かとなった。CRYのダブルノックアウトマウスの視交差上核の時計遺伝子であるmPer1やmPer2遺伝子の発現は高いまま変化せず一定値にとまっていて、時計遺伝子産物のネガティブフィードバックと呼ばれる発現制御が無くなっていることが明かとなった。CRY蛋白の機能に光受容の能力が関与しているかを知るために、光で生じるフェーズシフト(暗条件のマウスに短い時間の光を照射すると、視交差上核の時計遺伝子であるmPer1やmPer2遺伝子の発現が一過的に増加し、日周リズムが移動する現象)をダブルノックアウトマウスで調べたところ、正常マウスと変わらずに光反応が見られた。このように、光回復酵素のマウスホモローグが時計遺伝子として働いていることを示した。
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