我々はこれまでに三つの遺伝子のノックアウトマウスをこの基盤研究B(旧国際学術研究)で作成した。まず、微生物の光回復酵素のマウスホモローグを二つ単離し、mCry1とmCry2と名付け、これらのゲノム遺伝子をPCRで単離して、相同組み換えによる遺伝子の破壊を行った。精製した酵素や大腸菌で発現させたCry遺伝子はDNA修復の能力を示さず、他の機能に働いていることを示唆した。光受容は概日リズムに重要な因子であるから、作成したノックアウトマウスを調べると、はたしてCry1のノックアウトマウスは通常23時間の恒暗下での日周時間が22時間に、Cry2のノックアウトでは24時間に、さらにダブルノックアウトマウスは、明暗サイクルから恒暗サイクルに移すと直ちに日周リズムを全く無くしてしまった。これらのことから、mCry遺伝子が日周リズムに必須の機能を果たしていることが明かとなった。現在、CRY蛋白と光回復酵素との機能の違いを説明する為に、マウスやショウジョバエのCRY蛋白の構造決定の為の精製と結晶化を試みている。ノックアウトをしたもう一つのマウス遺伝子は、活性酸素で生じる致死損傷として知られるチミングリコールうぃ切り取り塩基除去修復を開始するグリコシラーゼであるマウスNth1遺伝子である。これまでに、ノックアウトマウスを作成し、その細胞株も樹立した。これまでの所、これらのマウスや細胞株は活性酸素種を発生する処置に対して野生型との有意な差は認められず、何らかのバックアップ修復系が働いているものと考えられる。今後は、その機構を同定する為にこのマウス個体が役に立つ。
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