研究概要 |
病原性細菌では増殖と蛋白質性毒素産生の為に鉄を必要とする.宿主には利用可能な遊離鉄が限られているためこれらの細菌では宿主のヘモグロビンのヘムを分解して鉄を獲得する機構が存在する.この機構の中心となるのが細菌のヘムオキシゲナーゼ(HO)である.私共は動物系の本酵素の酵素化学的研究を行ってきたが,この一年は特に細菌の本酵素について研究を行った.得られた結果を次ぎに記す. 1.Corynebacterium diphtheriaeのヘム分解酵素であるHmu Oの大腸菌での発現系と精製法を確立した.最終標品は分子量24KでSDSPAGE上単一バンドであった.2.Hmu Oは単純蛋白質であるが基質であるヘムを1対1で結合して出来た複合体はヘム蛋白質の性質を持っていた.ヘムは基質であると共に酸素活性化の役割も持ち,ヘム自身は自触的反応により,αヒドロキシヘム,ベルドヘム,ビリベルジン・鉄錯塩を経てビリベルジン迄分解された.3.ヘミン・Hmu O複合体は動物系のヘミン・HO複合体と同様に,中性では水を配位子とする六配位高スピン型であった.また,アルカリ側では六配位低スピン型に移行した.4.第五配位子はHis残基の中性イミダゾールである事がEPRや共鳴ラマンの実験から明らかになった.また,部位特異的変異法を用いた解析からHis20が配位子であることが知られた.5.Co置換プロトヘム・Hmu O複合体に結合した酸素はヘムポケット内で水素結合により安定化されていることが知られた.6.Hmu Oは基本的には動物系のHOと似ているが,細部では異なる点も観察され,この点の解明が今後の課題である.
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