研究概要 |
MT1-MMPは我々が始めての膜型マトリックスメタロプロテアーゼとして報告した酵素である。この事によって細胞外基質分解を担当するMMPには可溶型酵素と膜型酵素が存在することが明らかとなった。可溶型酵素は産生細胞から離れた遠隔領域も含む広範囲の組織の分解と再構築に関与すると予想される一方で、膜型酵素は細胞に近接した領域の細胞外基質分解を担当することによって組織における細胞の増殖、運動、形態変化などを調節すると考えられる。また、MT1-MMPはこれまで活性化機構が不明であったゼラチナーゼAの活性化酵素である可能性を生化学的解析と組織学的な解析によってこれまでに示している。MT1-MMPが確かにゼラチナーゼAの活性化因子であることを証明するために、マウスゲノム遺伝子の第1エクソンから第4エクソンまでを相同組換えによってLacZ,Neo遺伝子に置き換えたマウスを作成した。MT1-MMP(-/-)マウスの着床と胎児の成長は正常でメンデルの法則に従った割合で得られた。正常マウスの胎児期にはMT1-MMPの高発現とゼラチナーゼAの活性化が見られる。しかしながら、胎児組織あるいはそこから単離した線維芽細胞ではMT1-MMPの発現を欠<と同時にゼラチナーゼAの活性化が起こらなかった。この事から、少なくともMT1-MMPが組織レベルで働くゼラチナーゼAの生理的な活性化因子であることは証明された。また、遺伝子欠損マウスでは観察しうる変化が見られないことから、何らかの機能的な代償システムが働いていると考えられる。
|