1)無SAPマウスでは、対照野生型マウスに比べAAアミロイドーシスが有意に遅れて惹起されることを見出した。さらに、無SAPマウス株と対照野生型マウス株とに沈着したAAアミロイドの吸収実験を行い、両者でアミロイドの吸収速度に明確な差異を認めなかった。 2)無SAPマウス株と対照野生型マウス株とにAAアミロイドーシスを惹起し、これらマウス脾中のAAアミロイドの構成成分を光学顕微鏡を用いて、免疫組織化学的に比較解析し、またその超微細構造を電子顕微鏡を用い、急速凍結、ディープエッチング法で比較観察した。この結果、両者に沈着したアミロイド線維の構造に顕著な差異を見出した。また、AAアミロイドの中心部分に Heparansulfate proteoglycan(HSPG)が存在し、その周囲をAAやSAPが囲んでいることを示唆する結果を得た。 3)FAPに、より近似した動物モデルの確立を目指し、新たに開発した標的遺伝子組換え法を用いて内在性のttr遺伝子の一方のアレルに Met30変異を持つマウス株を確立した。これらマウスでは、変異を導入したttr遺伝子と正常ttr遺伝子の発現量に差異を認めない。このことから、我々が開発した標的遺伝子組換え法によれば、マウスに効率良く任意の点変換を導入することができると考えられる。さらに、生後22〜25ケ月齢のこれら内在性のttr遺伝子の一方のアレルに Met30変異を持つマウス16匹中2匹に、心、肝、腎、胃、小腸、大腸、脾にアミロイド沈着を認めた。現在、このアミロイドの主成分を免疫組織化学的に調べている。今後、これら内在性のTTRにMet30変異をもつマウス株とFAPの病因となるヒト異型TTRを合成する従来のトランスジェニックマウス株とで、アミロイド沈着の開始時期や程度に差異があるかどうかを解析する計画である。 4)SAPは、種々のアミロイドの沈着を促進し、またTTRは、in vitroでAβアミロイドの沈着を抑制することが見出されている。そこで、アメリカ合衆国のHsiao博士から供与された家族性アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデル(APPトランスジェニックマウス)と我々が確立した無TTRマウスあるいは無SAPマウスとの交配により、多くの仔マウスを得ている。この中から、TTR又はSAP欠損APPトランスジェニックマウスと対照野生型APPトランスジェニックマウスとを同定し、脳内Aβアミロイド沈着の開始時期や程度を、月齢を追って比較解析する計画である。
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