研究概要 |
1.恐怖条件付けストレス反応における脳内ニューロステロイドの役割 我々はこれまでにシグマ受容体に親和性を有するニューロステロイドのdehydroepiandrosterone sulfate(DHEAS)が恐怖条件付けストレス(CFS)反応を緩解すること、CFS反応を呈したマウスの血清中DHEAS含量は、非ストレス群と比較して有意に減少していたことを報告している。そこで、ストレス反応を呈したマウスの脳内ニューロステロイドの役割を調べた。脳内ニューロステロイド含量は、共同研究者のDr.Tanguiの研究室にて測定した。その結果、CFS反応を呈したマウスの脳内DHEAS含量は、非ストレス群と比較して有意に減少していた。また、DHEASの代謝酵素である3beta-hydroxysteroid dehydrogenase(HSD)を阻害するtrilostaneを連続投与しておいたマウスにおいて、CFS反応は認められなかった。以上の結果から、CFS反応の発現に脳内DHEASレベルの変化が深く関わっていることが示唆された。 2.κ-オピオイド受容体とσ-受容体を介する記憶の調節機構 κ-オピオイド受容体作業薬であるU-50,488Hあるいはσ-受容体作業薬である(+)-SKF10,047による記憶障害の改善作用に何らかの相互調節機構があるかどうかを検討を行った。自発的交替行動法において、U-50,488Hを皮下投与すると、有意にscopolamineによる自発的交替行動の障害が改善された。(+)-SKF10,047でも同様の改善作用が見られた。改善作用の見られなかった用量のU-50,488Hと(+)-SKF10,047を併用投与したが、協力作用は見られなかった。改善作用の見られた用量のU-50,488Hに対してσ-受容体拮抗薬のNE-100を、また、改善作用の見られた用量の(+)-SKF10,047に対してκ-オピオイド受容体拮抗薬のnor-BNIをそれぞれ併用投与したが、改善作用は抑制されなかった。以上の結果より、κ-オピオイド受容体またはσ-受容体を活性化すると、自発的交替行動の障害が改善されるが、今回の結果からは相互作用が認められなかったことから、抗侵害作用などで見られる作用とは異なり、その改善に、それぞれ異なった系を介する独立的な機序で記憶の調節をしていることが推察された。
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