研究概要 |
1.恐怖条件付けストレス(conditioned fear stress:CFS)反応におけるdehydroepiandrosterone sulfate(DHEAS)の役割 脳内DHEAS含量は共同研究者のDr.Tanguiの研究室にて測定した.その結果,CFS反応を示したマウスの脳内DHEAS含量は,非ストレス群に比べて有意に減少していた.DHEASを脳内投与あるいは3β-hydroxysteroid dehydrogenase(3β-HSD)阻害薬のトリロスタンを7日間連続投与したマウスにおいて,CFS反応は有意に緩解され,これらの緩解作用はシグマ1受容体拮抗薬のNE-100によって有意に拮抗された.トリロスタンは3β-HSDを阻害することによって,DHEAからアンドロステンジオンへの代謝を抑制し,その結果,DHEA量を増加させ脳内シグマ1受容体を介してストレス反応を緩解したものと思われる.また,副腎および精巣を摘出し,末梢ステロイドの影響を取り除いたマウスにおいてもCFS反応が認められたことからも,ストレスの発現には,脳内ステロイドが重要な役割を果たしていることが示唆された. 一方,ストレスにより脳内神経細胞におけるアポトーシスが生じることが知られているが,CFSによっても前頭皮質の神経細胞のアポトーシスが増加した.このアポトーシス細胞の増加は,DHEASによりストレス反応が緩解されたマウスにおいては有意に減少していた. 以上の結果より,CFS反応の発現には,CFSによる脳内DHEAS含量の減少および神経細胞のアポトーシスが関与しており,CFS反応に対するDHEASの緩解作用は末梢ではなく脳内のシグマ1受容体を介して発現していることが示唆された.またDHEASは,CFSによる神経細胞のアポトーシスの保護作用を有しており,この保護作用もCFS反応に対するDHEASの緩解作用に関与しているかもしれない. 2.β-アミロイド(Aβ)持続注入ラットにおける恐怖条件付けストレス(CFS)反応 共同研究者のAlexandreが来日し,β-アミロイド(Aβ)持続注入ラットにおける恐怖条件付けストレス(CFS)反応の影響を調べた.VehicleおよびAβ持続注入ラットにおいて,同程度のCFS反応が認められた.Aβ持続注入ラットのCFS反応は,シグマ1受容体作動薬およびDHEASによって緩解された.この場合,緩解作用を示した用量は,vehicle投与ラットにおけるそれよりもいずれの薬物においても低用量であった.これらの緩解作用は,シグマ1受容体拮抗薬によって拮抗された.従って,Aβ持続注入ラットにおけるCFS反応の発現には,シグマ1受容体が関与していること,シグマ受容体関連化合物による緩解作用が発現しやすくなっていることが示唆された.
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