神経前駆細胞の移植・分化誘導による神経網膜再生に関する研究

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10044272
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 高橋 政代 京都大学, 大学院・医学研究科, 助手 (80252443)
• 研究分担者: FRED H. Gage Salk研究所, 遺伝学研究室, 教授 ; 本田 孔士 京都大学, 大学院・医学研究科, 教授 (90026930)
• キーワード: 海馬由来神経系幹細胞 / 網膜 / 分化 / 神経細胞 / 移植細胞 / グリア / マーカー / ラット

研究概要

(網膜由来の網膜神経前駆細胞の分離・培養)
胎児ラット網膜(E17)網膜由来の網膜神経前駆細胞を分離した。
得られた網膜神経前駆細胞を含んだ細胞浮遊液を新生児ラットの硝子体腔に注入移植2週間後に、免疫組織科学的観察を行なった結果、ホスト網膜の構造を破壊することなく、移植細胞は網膜内に侵入していた。
(機械的網膜障害作成成体ラットに対する神経系幹細胞の移植)
30G針にて機械的網膜障害を作成した成体ラットに対する神経系幹細胞の移植後、ニューロンに分化した細胞がホスト網膜の神経細胞とシナプスを形成しているかどうかを金コロイドを用いた免疫電顕により検討したところ、移植細胞とホスト細胞との間のシナプス様構造が確認できた。
(胎児及び新生児ラット培養網膜への神経系幹細胞の移植)
ラット胎児(E-13〜E-17)、ラット新生児(P-0)の胎児網膜を摘出し、摘出直後の網膜に成体ラット海馬由来神経系幹細胞を含んだ細胞浮遊液を添加し、2〜3週間培養後、移植された幹細胞を免疫組織科学的に検討した。網膜は2〜3週間の培養では正常に分化成熟傾向を示し、特に胎生後期から新生児の網膜では網膜の全ての層構造が形成された。4週間培養すると網膜の層構造は崩れ、多くの細胞は崩壊していた。免疫二重染色の結果、移植細胞は網膜内に多数侵入しており、ニューロンのマーカーであるMAP5とグリアのマーカーであるGFAPを発現していた。HPC-1の発現はわずかに認められた。したがって、in vivoで過去に行なわれた幼若網膜や機械的障害網膜に対する移植と同様に、in vitroの実験系であるこの網膜器官培養系においても成体ラット海馬由来神経系幹細胞がニューロン及びグリアに分化することが確認されたが、網膜特異的細胞への分化の有無は現在のところ明かではない。

研究成果

• [文献書誌] Haruta M.et al.: "Retinal transplantation of the isolated progenitor cells from embrionic rat retina"Invest Ophthalmol Vis Sci. 40・4. 728 (1999)
• [文献書誌] Nishida A.et al: "Differentiation of the transplanted adult rat hippocampus-derived stem cells in adult rat retina with mechanical injury"Invest Ophthalmol Vis Sci. 40・4. 598 (1999)
• [文献書誌] Inatani M.et al.: "Identification of a nervous tissue-specific chondroitin sulfate proteoglycan, neurocan, in developing rat retina"Invest Ophthalmol Vis Sci. 40・10. 2350-2359 (1999)
• [文献書誌] Inatani M.et al.: "Expression of proteoglycan decorin in neural retina"Invest Ophthalmol Vis Sci. 40・8. 1783-1791 (1999)
• [文献書誌] Honjo M.et al.: "Expression of ciliary neurotrophic factor activated by retinal Muller cells in eyes with NMDA-and kainic acid-induced neuronal death"Invest Ophthalmol Vis Sci. 41・2. 552-560 (2000)
• [文献書誌] Takahashi M.et al: "Rescue from photoreceptor degeneration in the rd mouse by human immunodeficiency virus vector-mediated gene transfer"J Virol. 73・9. 7812-7816 (1999)