研究概要 |
成体ラットの網膜を機械的に損傷し、直後にLacZでラベルされた成体ラット海馬由来神経系幹細胞の懸濁液を硝子体中に注入した。1,2,4週後に4%paraformaldehydeにて灌流固定し、凍結切片を作製、ニューロン・グリア系の各種マーカーおよび抗β-galactosidase抗体を用いて蛍光抗体法による光学顕微鏡的観察および金粒子銀増感法による電子顕微鏡的観察を行った。移植された神経系幹細胞は損傷部周囲のホスト網膜の表層から内顆粒層に多く分布していた。移植細胞は移植後1週で神経前駆細胞のマーカーであるnestinを多く発現していた。移植後4週では、移植細胞におけるnestinの発現は減少し、神経細胞のマーカーであるMAP2abやMAP5、グリア細抱のマーカーであるGFAPを発現するものがみられた。網膜神経細胞のマーカーであるHPC-1,calbindin,rhodopsinの発現はほとんどみられなかった。電子顕微鏡的には、移植細胞の一部は仮足または細胞突起により移植細胞同士、あるいは移植細胞とホスト細胞間で接触していることが観察された.内網状層のレベルにおいては、移植細胞とホスト細胞との間でシナプス様構造を形成していることが観察された。損傷網膜に移植された神経系幹細胞は、ニューロンおよびグリアに分化することが示されたが、網膜特異的な神経細胞への分化はみられなかった。しかし電子顕微鏡的には、移植細胞はホスト網膜への親和性を持つ細胞に分化することが示され、またホスト網膜とのシナプス様構造の形成は、物理的接触のみならず機能的にも連絡している可能性があると考えられた。
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