研究概要 |
T細胞を作り出す胸腺内の部位または装置は「胸腺微小環境」と呼ばれる.この構造は,主に胸腺上皮細胞によって構成されているが,単に上皮細胞だけで構築されるのではなく,T前駆細胞と上皮細胞の相互作用によって成立すると考えられている.この考えを実証するための基礎的研究を行った. T細胞分化の場として最も単純化した実験システムは,マウス胎仔胸腺(FT)をデオキシグアノシン(dGuo)で処理したもの(dGuo-FT)である.dGuo-FTを培養液中に沈めて胎仔肝臓中の前駆細胞(c-kit^+Sca-1^+)と共に培養する時,70%O_2環境(HOS培養)ではT細胞分化が起こるが,20%O_2環境(LOS培養)ではほとんど起こらない.組織学的検索によって,HOS培養の系では胸腺上皮の構造が正しく再構築されており,T細胞分化のための微小環境が形成されていることが明らかであった.一方,前駆細胞を加えずに単にHOS培養を行っても微小環境は形成されない.さらに,LOS培養では前駆細胞を加えても微小環境は形成されず,単に前駆細胞が存在しているだけでも不十分であることが明らかとなった.すなわち,前駆細胞の分化増殖と微小環境の成立は常時相互作用しながら進行するものと考えられた. 今年度の研究は,前駆細胞として複数の細胞を用いたが,その中にはいろいろの種類の細胞が含まれている.今後は,それぞれ異なる種類の前駆細胞が微小環境の形成にどのようにかかわるかを解明する必要がある.
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