我々は、Verma博士の尽力により米国ガン研究所のO'Brien博士やWinkler博士を中心とする共同研究に参加する機会を得て、サイトカイン・SDF-1が宿主(ヒト)側の遺伝的エイズ発症時期決定因子のひとつであることを昨年1月にScience誌上に発表した。SDF1遺伝子座が3^1+型か3^1A型かどちらの遺伝子型であるかということと、感染からエイズ発症までの期間との相関を、約2800例の米国のHIV感染者のサンプルで統計的手法を用いて調べ、3^1Aのホモ接合型である場合にエイズ発症遅延効果があるという結果をえた。そこでさらに、SDF1遺伝子多型によるエイズ発症遅延がどのようなメカニズムによるのかを解明することを目的として、以下の様に実験して重要な結果を得たので報告する。 1:SDF1遺伝子3^1A多型は3^1非翻訳領域の塩基の置換であるため遺伝子にコードされているSDF-1タンパク質そのものは正常であり、量の差が発症遅延効果を及ぼすと考えられる。そこで、エイズ発症遅延の分子生物学的メカニズムはSDF-1タンパク質量の差異にあるという作業仮説を検討するため、我々が樹立したImmunoassay法を新たな抗体作製も含めて改良し、循環血中の内因性SDF-1タンパク質濃度を0.1ng/ml以下の感度で測定することに成功した。現在、エイズ発症までの時間別にグループ分けしたHIV-1ウイルス感染者のサンプルについて、SDF1遺伝子型とSDF-1タンパク質量の相関を検討中である。 2:作製した抗SDF-1抗体を用いて東大・医科学研究所の塩多博士らと共同研究を行い、SDF-1のHIV-1ウイルスレセブターの生理的リガンドとしての働きのメカニズムを解明した。3:ヒトSDF1遺伝子座の新たなポリモルフィック部位の検出のため、米国で共同研究を行った。現在も進展中である。
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