セミパラチンスクの被曝者様式は、慢性の外部及び内部被曝であり広島の被爆様式とはまったく異なっていることから、白血病など悪性腫瘍の発生様式も異なっている可能性があるため調査研究を実施した。最近、セミパラチンスク市の蓄積線量は40cSv程度と高いことが明らかとなっているが、セミパラチンスク市の東に位置する州都ウスチカメノゴルスクの線量も高いと考えられた。そこでセミパラチンスク救急病院と東カザフスタン州立病院で新たに診断された白血病及び骨髄異形成症候群(MDS)についてカルテをレビューし、標本を収集し形態の分類を行った。 収集した31例中、大気圏核実験が行われた1949〜1963年の間に被曝を受けたのは18例と考えられる。内訳は男性7例、女性11例、人種ではカザフスタン人8例、ロシア人8例、ドイツ人2例、診断時年齢37才〜78才、診断は急性骨髄性白血病(AML)M1 6例、AMLM2 1例、AMLM6 2例、AML分類不能1例、急性リンパ性白血病(ALL)2例、急性白血病分類不能2例、慢性骨髄性白血病1例、MDSのRA 1例、RAEB 1例、RAEBt 2例である。これらの症例について白血病関連遺伝子であるAML1とp53をPCR-SSCPを用いて変異の解析を行った。18例中1例にAML1のラントドメインに変異を認めたが、本例は67才女性ロシア人のMDS-RAで18〜32才に被曝したと考えられる。また1例にp53エキソン6、コドン195にATC(Ile)→ACC(Thr)の点突然変異を認めたが、本例は42才女性ロシア人の急性白血病分類不能例で0才〜6才に被爆したと考えられる。AML1遺伝子変異は放射線被爆との関連性が示唆されており、今後症例を集積し解析する必要があると考えられる。
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