環境ストレス時の免疫修飾における、脳・腸・肝・免疫連関の意義

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10044302
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 応募区分: 一般
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 堀 哲郎 九州大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (00022814)
• 研究分担者: 高木 厚司 九州大学, 大学院・医学系研究科, 助手 (30243934) ; 片渕 俊彦 九州大学, 大学院・医学系研究科, 講師 (80177401) ; 粟生 修司 九州大学, 大学院・医学系研究科, 助教授 (40150908) ; 武 幸子 九州大学, 大学院・医学系研究科, 助手 (80253425)
• キーワード: 脳・腸・肝・免疫連関 / エンドトキシン / IL-6 / フットショックストレス / FITCーLPS / クッパー細胞 / 腸管粘膜バリアー

研究概要

環境ストレス時の免疫修飾における、脳・腸・肝・免疫連関の意義を明らかにするために、本年度はラットを使った実験から以下の点が明らかとなった。
(1)肝門脈(PV)、下大静脈肝静脈合流部下部(IVCーLow)、同合流部(IVCーHV)、右房近傍静脈血(JV)の電撃フットショックストレス(FSS)誘導性のIL-6濃度変化を観察したところ、安静時のIL-6濃度はIVC-HVが最も高く、FSS誘導性のIL-6濃度の上昇も最も顕著だった。しかしながら、PVにおいても、他の部位(60min)よりも早い時間帯(30min)で一過性にIL-6濃度が上昇し、この上昇反応は一般静脈血の上昇反応と同様に循環血中のLPSの中和(PMBの持続投与)で消失させることが出来た。(2)下部回腸内腔にFITC-LPS(1mg/ml)を注入したラットにFSSを付加したところ、15分と60分の2峰性に一般静脈血中にFITCーLPS(40ー60ng/ml)が検出され、30分後の全肝臓組識から腸管内投与量の約5%のFITC-LPSを回収することが出来た。(3)FSS付加15分以内に、腸管膜、腸管膜リンパ節、肝臓の何れの臓器も組織LPS含量が増加したが、脾臓では増加しなかった。(4)IMストレス時に、肝臓の組識IL-6mRNA発現量は有意に増加したが脾臓では増加しなかった。(5)IMストレス時に、脳内の視床下部では有意にIL-6mRNAが増加したが、海馬や皮質では変化しなかった。(6)下垂体前葉の非内分泌産生細胞である濾胞星状(FS)細胞およびACTH細胞、TSH細胞にIL-6が発現し、IL-6受容体はLH細胞で優位に発現していた。(7)FS細胞の培養系であるGF細胞を使った実験から、FS細胞が肝臓のkupffer細胞と同様に末消LPSの濃度変化を高感度に認識しIL-6を発現していることが示唆された。
以上の結果から、(1)安静時や非炎症性ストレス時に末消に遊離してくるIL-6の主な産生臓器として肝臓が考えられ、少なくとも腸管由来のLPSがその誘導因子の一つとして作用している。(2)FSS時に腸管膜周辺臓器から肝門脈へのIL-6の遊離が起こるが、これも、腸管由来のLPSによって引き起こされている。(3)生体内に侵入してきたIL-6は、速やかに肝臓に集積し、管胆道系から排泄される。(4)肝臓のバリヤーをすり抜けたLPSは、視床下部や下垂体前葉に到達し、脳内メカニズムや下垂体前葉の内分泌系の活動を修飾している、等が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Kamikawa,H.: "Hyperalgesic response to noxious stimulation in genetically polydipsic mice."Brain Research. 846. 171-176 (1999)
• [文献書誌] 李学良: "OLETFラットの学習障害と[Ala]16-aFGF(1-29)による改善"OLETFラット研究会記録集. 最終巻. 101-104 (1999)
• [文献書誌] Li,A-J: "Protective effect of acidic fibroblast growth factor against ischemia-induced learning and memory deficits in two tasks in gerbils."Physiol.& Behav.. 66(4). 577-583 (1999)
• [文献書誌] Hosoi,M: "Prostaglandin E2 has antinociceptive effect through EP1 receptor in the ventromedial hypothalamus in rats."Pain. 82. 221-227 (1999)
• [文献書誌] Araishi,K: "Loss of the sarcoglycan complex and sarcospan leads to muscular dystrophy in β-sarcoglycan-deficient mice."Human Molecular Genetics. 8. 1589-1598 (1999)
• [文献書誌] Kamikawa,H.: "Hyperalgesic response to noxious stimulation in genetically polydipsic mice."Brain Res.. 846. 171-176 (1999)
• [文献書誌] 堀 哲郎: "神経・内分泌・免疫連関"アレルギー・免疫. 6. 52-61 (1999)
• [文献書誌] 堀 哲郎: "脳・免疫系連関に関する最近の進歩(討論)"中枢神経懇話会記録. 9. 1-18 (1999)
• [文献書誌] 堀 哲郎: "情動と免疫"Clinical Neuroscience. 48(7). 772-775 (1999)
• [文献書誌] Hori,T.: "Evidence for th einvolvement of AV3V in the circulating IL-β-to-brain communication."Journal of Thermal Biology. 25. 29-33 (2000)
• [文献書誌] Hori,T.: "Hypothalamic mechanisms of pain modulatory actions of cytokines and prostagladin E2."Ann.N.Y.Acad.Sci.. (印刷中). (2000)
• [文献書誌] 堀 哲郎: "サイトカインと神経伝達物質"日本薬理学会誌. 115. 209-218 (2000)
• [文献書誌] 堀 哲郎: "無意識の世界が感情をつくる"ゑれきてる. 75(印刷中). (2000)
• [文献書誌] 片渕 俊彦: "免疫学から見た神経系と神経疾患"日本医学館. 374 (1999)
• [文献書誌] 堀 哲郎: "麻酔生理学"真興交易医書出版. 388 (1999)
• [文献書誌] Takaki,A.: "Control Mechanisms of Stress and Emotion:NeuroendocrineーBased Studies"Elsevier Science B.V. 359 (1999)
• [文献書誌] 堀 哲郎: "サイトカインと疾患"羊土社 (印刷中). (2000)
• [文献書誌] Katafushi,T.: "Thermotherapy:Principles and PracticeーApplications in Neoplasia, Inflammation,and Pain-"SpringerーVerlag Tokyo Inc. (印刷中). (2000)
• [文献書誌] Hori,T.: "Psychoneuroimmunology"Academic Press Inc. (印刷中). (2000)
• [文献書誌] Hori,T.: "Pain in Neuroimmune Interactions"Kluwer Academic/Plenum Press (印刷中). (2000)
• [文献書誌] Aou,S.: "Thermotherapy:Principle and PracticeーApplication and neoplasia,Inflam-mation,and Pain."SpringerーVerlag (印刷中). (2000)
• [文献書誌] Hori,T.: "Thermotherapy:Principle and PracticeーApplication and neoplasia,Inflam-mation,and Pain."SpringerーVerlag (印刷中). (2000)