グルタメイト(Glu)のような内在性エキサイトトキシンが、数多くの神経変性疾患発症時に観察される、特徴的な神経細胞死の出現メカニズムに関与すると思われる。つまり、脳血管障害やアルツハイマー病、あるいは低血糖や脳外傷、さらにけいれん発作やてんかん症状の出現、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、脊髄小脳変性症および脳性麻痺など、神経細胞変性疾患の出現には、Gluの神経毒性作用が関与する可能性は高い。今年度は、細胞外Gluシグナル入力に必要なGluレセプターの中でも、特にN-methyl-D-aspartate(NMDA)に感受性の高いサブタイプについて、細胞内シグナルとして遊離Caイオンの詳細な解析を行った。妊娠18日齢の雌ラットから、胎児を取り出したのち、実体顕微鏡下で大脳皮質を切り出した。神経細胞を機械的に分散したのち、無血清条件下で培養した。種々の日数培養後、抗MAP-2抗体と抗GFAP抗体を用いて、それぞれの陽性細胞を検索したところ、抗MAP-2抗体陽性細胞はいずれの培養日数でも検出されたのに対して、抗GFAP抗体陽性細胞は3日間培養では全く検出されなかったが、6日間培養の場合は同陽性細胞の存在が確認された。3日間培養の大脳皮質神経細胞内に、Ca蛍光色素fluo-3AMを取り込ませたのち、共焦点レーザー顕微鏡を用いて蛍光強度変化を測定した。その結果、10〜50μMのNMDAに暴露したところ、暴露2分後にはほとんどの培養細胞が著名な蛍光強度の上昇を示した。この上昇は、NMDAアンタゴニストのMK-801の添加により完全に消失したので、細胞膜上のNMDAレセプターを介する現象であることは明らかであった。以上の結果から、初代培養大脳皮質神経細胞では、NMDAシグナルに応答して、細胞内遊離Caイオン濃度が上昇するものと推察される。
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