まず、多成分流体系における輸送現象を記述する方程式を、熱力学第二法則と保存則から一般的な形に求めた。食塩水を入れた容器に小さな穴をあけて真水と接触させると、食塩水が流出して分流を起こし、その対流が振動運動することが知られている。このとき、対流に同期して、イオン濃度差によるネルンストポテンシャルが振動する。この現象の機構を解明するために、ネルンストポテンジャルに関するプランクの理論を拡張して、拡散と対流の結合した系にJacksonの摂動理論を用いて、定性的に実験結果を説明した。 また、拡散流に対する現象論を微視的リウビル方程式から導くためには、拡散流に対する微視的演算子を定義する必要がある。熱力学における拡散流については、成分に関する和がゼロとなるが、微視的な演算子についてはその条件が満たされないことが難点であった。この点についても、議論して解決の見通しがたった。つまり、揺らぎのレベルでは束縛条件が成り立たない、ことがわかった。 また、反応拡散系において、反応物を供給し、生成物を除去することにより、非平衡定常状態を形成すると、揺らぎの長距離相関が発生するが、その成長機構をモデル系で明らかにした。 本年度は、多成分の古典系について考察したが、次年度は光励起を伴う量子的多成分系について研究を進めることにした。
|