研究概要 |
本年度は本科研の最終年であることを考慮して,分担者および協力者をふくめ,これまでの成果をまとめる方向で補足的な調査にあたることとした.また,まとめの一環として分担者・協力者以外にも協力を求め,関連する国内外の研究者に呼びかけて「ヒマラヤ・チベットの上昇と地球気候変動(Himalayan and Tibetan Uplift and Global Climatic Changes)」をテーマに国際セミナーを平成12年9月に松江に於いて開催した. 1.ヒマラヤ形成に関わる環境変化と貝類分布調査:カトマンズ盆地の堆積層において,淡水貝化石の採取,および産出地付近の地質調査を行った.その結果,従来ルクンドール層に対比されてきた地層中よりPisidium sp.,Bithynia sp.,Gyraulus sp.,Planorbis sp.,Bellamya sp.,Tricula sp.などの淡水貝化石の産出が確認された.この群集には旧北区起源の小型種が含まれ,カシミール盆地の更新世淡水貝群集とも共通する.ヒマラヤの上昇とともにユーラシアの気候帯がより明確化し,ヒマラヤを挟んで移動できる動物が渡り鳥などに限定されてきたことを示唆するデータといえる. 2.フェワ湖流域管理に関する研究:昨年と同様にフェワ湖内5地点において水深別に採水し,水質分析を行った.また,サランコット山南東面流域を対象に農耕地からの負荷流出特性を把握するため河川の上流から下流に向けて3地点づつ計6地点で調査を行った.対象河川は中流部において伏流していることが明らかになった.伏流はポカラ盆地が高ヒマラヤ帯の石灰岩砕屑物を多く含む石灰質の第四紀層で覆われていることによるもので,このことがフェワ湖の栄養塩流入負荷をも規制していることがわかった. 3.国際セミナーでは中国,ネパール,インド,タイ,アメリカからの参加を含め14の講演があり,それぞれの研究の成果と今後の研究の進め方について議論された.本科研関係者では研究代表者のほか,研究協力者のB.Ratanasthien(タイ,チェンマイ大学)がタイ北部の新生代気候変動について,またD.L.Dettman(米国,アリゾナ大学)が淡水貝試料の同位体分析から新生代後期のアジアモンスーン形成期についての議論を行った.
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