研究概要 |
1.高輝度放射光を用いた実験的研究 SPring-8においてダイヤモンド移相子を用いた円偏光変調法によるX線磁気円二色性(XMCD)を確立した.これによって従来のデータに較べて高精度のスペクトルが得られるようになった.具体的な物質では,Mn_3ZnC,Mn_3GaCペロブスカイトの磁気相転移に関する温度及び磁場依存性を系統的に測定した.また,高磁場下でのCeSbのメタ磁性転移の観測に成功した.700Kまでの高温領域での測定も行い,キュリー温度近傍での臨界現象と磁気状態の相関を議論するデータを得た. 2.多層膜磁性体に関する実験 磁性多層膜Ce/Fe,CeH/FeにおけるCeの磁気状態をXMCDの温度依存性を通して調べた.特に直線偏光を用いた共鳴磁気散乱の実験によって,積層周期に対応するブラッグ散乱を測定し,それに重畳する磁気的効果の測定を行った.透過法によるXMCDスペクトルと併せて層間あるいは層内の磁気構造に関する情報が得られた. 3.スピン電子状態に関する理論的研究 酸化鉄の電子状態をFeイオンの2p内殻光電子スペクトルの理論解析を通して調べた.また,ハバード模型に対して共鳴内殻発光スペクトルの数値計算を行い,電子相関効果を調べた.希土類化合物におけるL端吸収・発光およびその磁気円二色性についての定式化を行い,定量的計算を実行した.その結果と実験結果との詳細な比較より,4f-5d交換相互作用の新しい役割の重要性を確認した. 4.放射光実験装置の開発 SPring-8に最高磁場10Tの超伝導マグネットを設置し,高磁場かつ低温でのXMCDスペクトル測定に成功した.ダイヤモンド高圧セルを用いた高圧下での磁気相転移に関する実験計画も進捗している. 5.研究者の交流 岡山大学とグルノーブル大学(フランス科学院結晶学研究所)の間で延べ4名の研究者の交流を実施した.グルノーブル大学,フランス科学院結晶学研究所及びヨーロッパ放射光研究所などの研究環境の視察と情報交換,スペクトルの理論計算に関する研究討論を行った.2000年上期のSPring-8利用研究課題として共同実験を2月11日から16日の期間に実施した.
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