研究概要 |
1.日本側は,ボルツマン方程式の多体粒子系(リューヴィル方程式)からの形式的導出を再考察し,系統的かつ明解な形に整理して仏側に提供した.これにより,ボルツマン方程式の導出に対する新しい数学的証明の可能性が開かれた.これと平行して,多体粒子系から流体力学方程式(オイラー方程式系)を直接導出する研究が,前年度に引き続き,日仏協力のもとで行われた. 2.日本側は,仏側と協力して境界温度の不連続によって生じる希薄気体の流れを数値解析によって調べ,その挙動を広範囲の希薄度に対して明らかにした.この流れでは,気体分子の速度分布関数の不連続が境界から気体中へ伝播するが,これを厳密に数学的に記述する研究に日仏が協力して着手した.その第一歩として,ボルツマン方程式と類似の性質を持つがはるかに構造が簡単な線形輸送方程式を取り上げ,媒質中への不連続の伝播を厳密に記述した. 3.日本側は,流体力学方程式(オイラー方程式,ナヴィエーストークス方程式)を含む一般の保存方程式の運動論的解法に関する明解かつ系統的な理論を構築し,仏側に提供した.仏側は,このスキームの数学的研究(厳密な収束証明,誤差評価など)を行うことになった. 4.日本側は,蒸発・凝縮を伴う界面における流体力学的方程式の境界条件を,数値解析・形式的漸近解析によって既に得ていたが,仏側の協力のもとに,これに対する数学的に厳密な評価に成功した. 5.日本側は,ボルツマン方程式に基づく分岐現象・不安定現象の解析,周期的壁面温度分布による低圧気体の一方向流れの実験などの成果を仏側に提供し,仏側はこれらに関連する数学的問題を検討した(例えば,周期的温度分布をもつ平行平板間の低圧気体には一方向流れが生じないことの数学的証明を与えた).
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