研究課題
国際学術研究
マレーシアにおける移民の寄生虫感染状況、特に移民の母国から持ち込まれる輸入寄生虫症について、今年度は2回の野外調査を実施した。第1回は1998年9月にネゲリ・センビラン州レンゲンにある不法移民の抑留キャンプで調査を行った。その結果、特筆に値するような輸入寄生虫症は検出されなかったが、赤痢アメーバ(10.3%)、クリブトスポリジウム(52.9%)など最近日本でも問題になりつつある原虫症が対照群に比して高率に検出された。また、腸管寄生蠕虫として、セロファン厚層塗抹法で回虫19.1%、鞭虫28.1%、鉤虫21.4%が検出された。特に鉤虫は濾紙培養法では72%の高率で検出された。しかし、これらは対照群でも同様あるいはむしろ高い値が得られており、輸入寄生虫症としての意味は低いと思われた。同様のことは他の原虫症なとでも観察され、予想に反して不法移民でも特に高い寄生虫感染を保持しているとは言えない結果となった。この理由の一つとして、不法移民の場合、キャンプに抑留されるのは一定期間マレーシア国内、特に大都市で不法に滞在してからであり、その間に一般住民と同様な感染状況になったことが考えられた。従って、入国後の滞在期間との相関を十分に考慮する必要があることが示唆された。第2回は1999年2月にセランガ州にあるカレー島のヤシ油ブランテーションで合法移民労働者を対象として実施した。この調査の結果は現在検査中であるため確定していないが、興味深い結果としては、血液中に熱帯熱マラリア原虫が低密度ながら多数の者に確認されたことがあげられる。これらの感染者はいずれも何の症状も表しておらず、いわば潜在感染の状態であった。労働者の多くはマラリアの流行地であるインドネシアの出身で、比較的頻繁に母国に帰国しており、そこで感染したと考えられる。こうした輸入寄生虫症の定着の有無について今後さらに継続的な調査解析の必要があると考えられた。