研究概要 |
1998年と1999年に、約2ヶ月間かけグアテマラ共和国モモステナンゴ県チュクルフユップ村、及びチマルテナンゴ県コマラパとパナバハル村を調査地とし、文化結合症候群スストに関する調査を行った。36名の呪医にインタビューし、スストは女性や子供に多く,増加傾向にあること、その中に肺炎などの身体疾患や分裂病などの精神疾患が含まれることが分かった。また、呪医によるススト患者11名の治療儀礼を観察記録した。コマラパにおいて、村の健康改善委員の協力を得て女性37名と男性20名のススト体験に関する面接調査を行った。その結果、女性でススト体験者群は21名(57%)、平均年齢30歳、20歳以下での体験者は67%と多く、結婚状況(未婚14%、既婚71%、死・離別14%)、修学年数(平均2年)、SDS(平均値35)などは、非体験者群と顕著な差はなかった。体験者群にマヤ語だけを話すと答えた人がやや多かった。一方、男性ではススト体験者は10%と少なかった。呪医はスストの原因を、超自然界の存在により魂を奪われた結果とした。一方村人は、川におちたり、転ぶといった偶発的な小事故を原因と従来考えていたが、今回は交通事故など近代的事物や内戦といった特殊な外傷体験がかなりの部分を占めていた。ススト体験者の2名に心気症を認めたが、他に精神障害や人格の偏りを認めず、やや伝統文化志向型の女性が多いと思われた。女性の社会活動への参加や自己主張が制限されており、女性の地位は低く、これらの状況から派生する慢性ストレスがスストを生じ、近年の急激な文化変容に対する不適応や内戦時の精神外傷体験がスストの増加をもたらしていると考えられた。呪医は典型的なススト患者を見事に癒し、村人を苦悩から解放し共同体に復帰させるリカバリー・システムは現在も機能していた。しかし、スストに身体疾患などが多く含まれるようになり対応策が急務と考えられた。
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