近年予防医学の領域でハイリスクアプローチと集団アプローチということが対比されて論じられている。英国のKhawは、フラミンガム研究における心疾患発症の実数はコレステロール値正常群に多いこと、日本とフィンランドでは集団全体としてはコレステロールの分布が全く異なること等を示し、ハイリスク者だけでなく、集団全体を問題にすることの重要性を明らかにした。米国やカナダではEBMの考え方に基づき、検診を含む予防活動についてもEvidenceを集めそれを評価基準に基づきランク付けし、程度をつけた勧奨を行っている。米国のChristianiは、この検診評価の基本的な考え方や評価基準について概念的な整理を行うとともに、実施上の問題点をまとめた。これを受けて矢野は、脂肪肝に対する超音波検査など確定診断検査を全員一律に行った事業所の約4千件のデータを用い、定期検診の肝機能検査項目が、目的疾患を検出する鋭敏度が低いことを示した。また、尿糖検査の糖尿病患者発見についての鋭敏度、特異度を、人間ドックデータを用いて調べ、実際の検査の場では、十分な鋭敏度が得られる検査条件が守られているのはむしろ少数であることが明らかになった。Batesは新たに医療情報システムの構築とその成果について報告した。以上の研究から、現在わが国で毎年行われている検診が必ずしも合理的な根拠を持たないことが明らかになったが、その制度の改変は一朝一夕には進まない。そこで、現在の検診から年々発生する情報を利用する方法と、個人の場合も経時的なデータ処理により、より感度を高めた検診情報の利用の方法を開発し施行した。最後にBrainが全体をまとめて今後の研究や予防活動の方向について報告し、公衆衛生的な考え方の重要性を強調した。
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